出典:トムセン少佐さんによるイラストACから
歴史漫画レビューも8回目になりました。
今回は8にちなんで『八犬伝(The 八犬伝)』(碧也ぴんく)を取り上げます。
本作は当初、角川書店のOVA『The 八犬伝』とのタイアップ作品として描かれていました。
しかし、作者が調査目的で原作となった古典『南総里見八犬伝』(曲亭馬琴)を深掘りするうちに、古典寄りのストーリーになっています。
また、作品のボリュームが膨らんだことも一因ですが、掲載誌が何度も休刊になって連載が中断されたこともあって、のべ6年余りの連載を経て完結。全15巻の大作です(文庫版は8冊)。
あらすじ
時は戦国時代初頭。結城合戦を落ち延びた後、紆余曲折を経て南総・安房(千葉県南部)を奪還した里見義実。
奪還戦で斬首することとなった旧領主の妻・玉梓から呪いを受けます。
[word_balloon id=”2″ position=”L” size=”M” balloon=”talk” name_position=”under_avatar” radius=”true” avatar_border=”false” avatar_shadow=”false” balloon_shadow=”true”]里見の子孫を畜生道に落とし、煩悩の犬にしてやる[/word_balloon]
その後、里見家のピンチを救った霊犬・八房は褒美として里見家の姫・伏姫と結婚することになり、伏姫と八房は山にこもります。しかし、八房と暮らすうちにその気を受けて懐妊したことを恥じ割腹してしまいます。
伏姫を追って山に入った金鋺大輔は伏姫から飛び出した八つの霊気を追うため、犬の字から取ってヽ大(ちゅだい)法師となって各地を巡ることとなります。
その後、伏姫の霊気を受けた八犬士が登場し、それぞれが邂逅や冒険を経て安房の里見家に集合します。
折しも、扇谷定正と山内顕定の両上杉家に足利成氏を中心とした里見討伐の連合軍が押し寄せます。
多勢に無勢、危機に陥る里見軍でしたが、八犬士の霊力と機転によって難局を打開し、安房に平和をもたらすのでした。
ちょうど関東で北条早雲率いる後北条氏が台頭してくる頃に当たりますね。
勧善懲悪に加えて、霊玉に刻まれた「仁義礼智忠信孝悌」という儒学キーワードを背負った八犬士の縦横無尽の活躍、という分かりやすくベタな展開だったこともあって当時の市民だけでなく武士にも受けたことから、大人気作品となりました。
また、作中に引用される故事や古典も知識階層の食指を動かしたようで、まぁ、ヲタク受けもよかったということですね。
中には「猫の額ほどの土地を巡る争いを28年間も書き続けた長編」などという評価を見たこともあるのですが、南房総以外にも江戸(東京)や甲斐(山梨)、越後(新潟)を舞台にしたエピソードもあり、広く関東甲信越をカバーしています。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)や文学ではありませんが、『富嶽三十六景』(葛飾北斎)といった当時の観光ガイド的な側面もあった模様です。
なお、八犬士の中でもスーパー神童の犬江親兵衛とその叔父・犬田小文吾の出身地はJRや東京メトロ・東西線の駅もある下総(千葉県)・行徳です。
『南総里見八犬伝』(曲亭馬琴)
曲亭馬琴(=滝沢馬琴)の『南総里見八犬伝』も1814年(文化11年)~1842年(天保13年)と足かけ28年にわたって刊行された大長編です。
原典校訂版は岩波文庫から出版されています。初版が戦前のため、校訂版と言っても既に古典文学化した内容で読むのはかなり難易度が高いです。
現代語訳版では、JICC出版局(現:宝島社)から刊行されていた『南総里見八犬傳』(羽深 律)が完訳版と言ってもいい意欲作でしたが、残念ながら6巻までで未完となっています。
『南総里見八犬伝』は話の本筋と関係ない神話や故事が出てきて脇道にそれることがしばしば起こるのですが、羽深版ではそうした枝葉のエピソードもしっかりカバーされており、まさに完訳版の名にふさわしい内容でした。
表紙絵も妖艶な感じでよかったですね。中はほとんど挿絵なくて読みごたえあるというか文字ばっかりというか…
曲亭馬琴版は、だいたい一巻あたり5回分の話を収録していて、およそ500冊刊行されていたのですが、貸本屋を通じて市民の人気を博しました。
貸本屋については下記の記事でも触れております。ご参考まで。
『八犬伝』(碧也ぴんく)
碧也ぴんく版『八犬伝』は伏姫入山のエピソードから八犬士が里見討伐軍撃退後に仙人になるところまで描かれています。玉梓の呪いを受ける話も挿入されており、ほぼほぼ原作のストーリーをカバーしていると言えます。
何度も掲載誌を移ることになっても完結まで筆を折ることなく本作を描き続けられたことは、控えめに言って尊いとしか表現できません。
そして本作の経験が、八犬伝をベースにした近未来漫画『BLIND GAME』や妖怪と古典を中心にした『鬼外カルテシリーズ』に繋がっていくことになったのだと思われます。
いかがでしたでしょうか。
碧也版『八犬伝』によってイメージ付きで概要を掴み、はまってきたら馬琴版『南総里見八犬伝』を読んでみる、という流れで江戸文学の傑作に触れてみるのもよいかと思われます。
また、『南総里見八犬伝』の世界をより詳しく知りたい、ということでしたら下記サイトもおすすめです。