新九郎＝北条早雲
今回紹介するのはビッグコミックスピリッツで連載中の「新九郎、奔る！」（小学館、ゆうきまさみ）です。
本作品は『月刊!スピリッツ』で2018年3月号～2019年12月号まで連載された後、『週刊ビッグコミックスピリッツ』に移籍して連載中です。
のちに北条早雲と名乗る伊勢新九郎長氏の少年時代から成長していく様子を描いています。
単行本は現在3巻まで出ており、ここまでは応仁の乱に新九郎や新九郎の出身である伊勢一族がどう関わっていくかが描かれていました。
週刊連載版となって、新九郎の出自である備中（岡山県）の荘園経営を経験することになります。
北条早雲は豊臣秀吉の小田原攻めで敗れるまで関東一円を支配した後北条氏の開祖です。
後北条氏が関東一円を支配下に置くにあたり、初代早雲が足がかりにしたのが伊豆の韮山城。この城を与えたのが今川氏親。今川義元の父で新九郎の甥にあたります（新九郎の姉が今川氏親の父である今川義忠の妻）。
伊勢新九郎は今川家に身を寄せるまでの出自が分からない謎の多い人物とされてきましたが、近年の研究から備中の荘園領主だったことまで分かってきたようです。
そして本作では代々室町幕府の政所執事（財政・政治機関の要職）として実権を握った伊勢氏の一門説を取っています。
応仁の乱編が面白い！
戦国時代を取り上げた作品は数多くありますが、戦国時代の端緒となった応仁の乱についてじっくり描いた作品はなかったと思います。日野富子を主人公とした『日野富子』くらいかな？
大河ドラマ『花の乱』の影響で他にも日野富子視点の作品は出たかもしれませんが、俯瞰と伊勢一族視点で捉えた本作は極めて珍しいと思われます。
そして、この伊勢一族、というか一族の長である伊勢貞親が謀略の塊というか政争に長けており、ドロドロの政権争いを繰り広げます。主人公の縁戚にこんな腹黒い人居ていいの？！っていうくらい抜け目ない。
でもこれが当時の室町幕府中枢では当たり前。次代将軍を巡って将軍兄弟も内輪揉めを起こし、有力者も一族同士で小競り合いを繰り返し、小さな火種から始まった戦（いくさ）がいつの間にか長期化、拡大化して世の中が浮足だってくる様子が丁寧に描かれています。
『機動警察パトレイバー』で黒幕の内海がジワジワと悪事に染めていった時のような感覚と言ったらよいでしょうか。ゆうき先生は淡々と小事を積み上げて気がついたら大事になるストーリーの進め方がうまい。
また、人物もしっかりと描き分けられているから、似た名前が多く、敵味方が急に変わる応仁の乱でも、じっくり読めば混乱することなく話を追いかけられます。
2016年に出版されたその名も『応仁の乱』（呉座勇一）も応仁の乱をバランスよく整理して解説した好著として人気を博しました。
私もそうですが、戦国時代や幕末ばかりでなく、室町時代をはじめとした時代にも興味を持つ人たちが増えているからかと思います。歴史愛好のすそ野が広がっているのはよいことですね。
『新九郎、奔る！』では今川義元の祖父にあたる今川義忠も既に登場し、戦国武将オールスターズのおじいちゃんやお父さんがこれからも出てくる気配が濃厚です。
後北条氏を支える御由緒六家もそのうち出てくるでしょう。架空の人物ですが風魔小太郎なんかも出てくるんでしょうか？
本作を押さえておくことは戦国時代のルーツを押さえることになると思われます。
第1話で伊豆に攻め込んでいましたが、この時30代後半のアラフォー。青年新九郎が伊豆を手中にする日が来るのを楽しみに見守りたいですね。
『学研まんが人物日本史』版 新九郎奔る！
ところで、これまでに伊勢新九郎を取り上げた漫画がなかったかというと、『学研まんが人物日本史』が北条早雲（および後北条氏5代）を取り上げていました。
織田信長、武田信玄、上杉謙信、といったメジャーどころの偉人だけでなく、足利尊氏のようなマイナーな人物を取り上げるようなことも当時の学研さんはやっていて、当時の編集会議でどうやって対象となる人物を決めていたのか大変興味深いものがあります。
なお、作画は『狼少年ケン』の伊藤章夫先生！軽妙なタッチでおよそ100年にわたる後北条氏の栄枯盛衰を描いておられます。
この頃はまだ今川領の駿河（静岡県）に来るまでは浪人だった説を採用してます。
（出版年を調べたら1984年でした。マイナー武将にも関わらず大ヒット作となったNHKの大河ドラマ『独眼竜政宗』（1987年）よりも古い…本当にどういった経緯で選ばれたのでしょうか？）
『早雲の軍配者』という小説を原作とした漫画も発表されていますが、こちらは残念ながら途中で打切りの憂き目に遭ったようです…残念ですね。
