黒船来航前後の江戸を舞台に、御家人・飛田蔵之丞と彼の家族や周辺人物のドラマを通じて江戸時代後期の経済事情や下級武士の懐事情を知ることのできる作品です。
御家人の平均年収は114万円!
江戸時代の間、基本的に武士の給料、つまり石高はずっと上がらず、一方で物価は上がっていったため、江戸時代後期の武士は困窮していました。
いわゆるインフレが起こる中、江戸時代後期の飛田家の俸禄は50石。本作で仮置きの試算と前置きして算出したおよその金額は114万円。
所得税や公共保険料などはなかった時代ですからイコール手取りとしてもかなり厳しい懐事情だったことが分かります。
剣術で身を立てようとする蔵之丞
飛田家の次男である蔵之丞は俸禄を継ぐこともなく、居候の身として立身出世を図ることになります。
町道場で二刀時中流(本作オリジナルの架空の流派)の師範代を務める腕前の蔵之丞。
ある時は道場破りと闘い、用心棒を務め、剣の道で身を立てる方法(大藩への士官など)を探します。
江戸の職業図鑑
本作品ではさまざまな職業を持つ人たちが登場します。
- 旗本・御家人といった将軍直参の武士
- 地方藩の江戸家老
- 札差
- 火消し
- 下掃除人(肥溜め回収業者)
- 同心をはじめとした与力
- 歌舞伎役者
- 力士
- 芸妓・岡場所など夜のお仕事
この中でも札差という職業には耳慣れない方も多いのではないでしょうか?
本作によれば札差とは、直参武士の年貢米を換金して手数料を受け取っていた代行業者です。また、時には物入りの武士に対して年貢米を担保に高利貸しを行なっていました。
一方で江戸時代に何度か出された徳政令(借金を棒引きにする法令)によって損害を被ったり、借金を踏み倒されたり、武士に脅迫されたりするなど、命がけの仕事であったことも描かれています。
武士の懐事情以外の江戸後期の暮らしぶりもよく分かる
蔵之丞とその家族、幼なじみの札差・京次を通じて当時の武士や町人の暮らしぶりが経済学的観点から伺い知ることができるのも本作の特徴です。
当時は害鳥であったトキを食べていたとか、二八=16文で食べられていた二八蕎麦が当時は20文に値上がりしてたとか、芸者遊びするには何両必要とか言った情報がおよその金額ですが〇〇円という現在の価値に直して表現されるので、これは高いな、あれは安かったんだな、などと思いを巡らしながら読む楽しみがあります。
また、当時の用語も詳しく解説されており、本作品を読んでから『鬼平犯科帳』などの作品を読んだり時代劇を観るとより楽しめるかと思われます。